脱・幼なじみ

「ずっと一緒にいようね」
なんて幼い頃に言っていたこと、私しか覚えていないと思う。

中学3年になった日、始業式の後にいきなり進路指導の時間が設けられた。受験生として過ごす1年間。取り組むのが早ければ早いほどいい……のだろうか? 自分の将来について考えてみても、明確なイメージなんてわかなかった。

鳴は野球の推薦であっという間に進学先を決め、進路指導の時間をいつも退屈そうにしていた。

どんな高校に進学するか。進路指導室にいくつか置いてある近隣の高校のパンフレットをパラパラと見てみても、母親から「どこそこの高校はいいらしい」と聞いてもやはりピンとこない。
学校見学の日程を見たり、体験入学の日程を友達と話したりしつつ、私がぼんやりと方向を固めた時、一番最初にしたことは鳴への、幼なじみへの報告だった。

夕食後、お隣の成宮家にお邪魔して鳴の部屋を目指して階段を登る。ノックを2回して「私」と声をかけ、中から「どーぞ」と言われて扉を開ける。事前に話があるから夜行くと伝えてあったので、鳴は走り込みに行ったりはしなくて、雑誌をパラパラとめくっていた。

「話って何?」
思わず正座をして鳴に向き合った。
「鳴は高校、稲実だよね」
「そーだよ。も稲実にすんの?」
幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒だった。去年までの私は高校も鳴と一緒なんだろうなと漠然と思っていた。

けど。

「私、稲実には行かない」

鳴は適当に読んでいた雑誌を置いて、私に向き合った。

「………」
「………」

シンとした部屋の中で、先に口を開いたのは鳴だった。

「じゃあ、付き合って」
「どこに?」
「今そういうボケはいらないから! 彼女になって!」
「彼女? ……私が、鳴の、彼女?」
「そう、は俺の彼女。俺はの彼氏!」

何度も瞬きして鳴の言葉の意味を考える。
彼氏? 彼女?

「決まったからね! じゃ、俺走りに行くから!」

バタン、と扉が閉まって、鳴の部屋を追い出された。そうして私は成宮家を後にする。
帰宅時間わずか10秒。自分の部屋で改めて鳴の言葉を思い返す。

私たちは幼なじみという関係から一歩進んで、彼氏彼女になったらしい。

いやいや、幼なじみからの関係の変化って、もっとこう、何かあるものじゃないの?
少女漫画でよくある、昔のままの呼び方はするなとか、からかわれるから一緒には帰らないとか、そういう、イベントを経ていくものじゃないの?
私と鳴の間に、そんなイベントは一つも無かったけれど。

「え、えー……?」

私たちは、彼氏彼女になったらしい。