眩しい夏を駆けていく

世界がなくなったかのような時間だった。暑さも、応援の声も、何もかもがなくなったような時間。
ボールが投げられる度、カウントが増えて試合が進む度に、世界が遠ざかっていった。握りしめていた拳を開くと、手のひらに爪の跡がくっきりと残っていて、慌てて手の力を抜く。
夏なのに寒気を感じ、腕を見たら鳥肌がたっていた。

甲子園をかけた、夏大会の決勝。
サヨナラの試合は何度見ても心臓によくないなと思いながら、2塁の手前でガッツポーズをしている鳴を見ていた──

多分、鳴は泣いたと思う。


いつもなら試合が終わった後に鳴にメールを送るけど、その日はメールを送らなかった。いや、送れなかった。
「おめでとう」や「やったね」、なんていつもと同じ言葉に違和感があった。

結局、次の日のお昼にメールを送った。『甲子園、応援してるね』の一言だけ。鳴からの返事は無かった。
きっと、祝勝会やインタビューなんかで忙しいのだろう。

携帯電話が鳴ったのは、更に次の日の夜。

?」
「鳴、時間大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら電話しねーし!」
「そうだね」
「そうだよ! は気使いすぎ!」

「こっちなんてさぁ!」と愚痴を話し始めた鳴の勢いに押されてしまう。
新聞や雑誌、ネットの記事なんかのインタビューが多くて流石に疲れたらしい。
一通り話して満足したのか、ふと会話が途切れた。

!!」
「なぁに?」
「てっぺん取ってくるから!! 見逃すなよ!!」

「じゃ、またね!!」と言って鳴はブツリと電話を切った。

あんなにも暑い中、試合や練習を行っているというのに、鳴はいつも元気だ。
きっと甲子園でも、文句を言ったりしつつも、鳴は元気なんだろう。