その他大勢に興味なし

鳴はファンサービスがいい。声をかけられれば笑顔で手を振るし、望まれれば写真だって喜んで写る。

一度女の子に囲まれて喜んでピースしながら写真を撮っているところを見たとき、私は思わず素直に驚いてしまった。
……帰宅後、自分の部屋でちょっと悶々としてしまったが。

私は一応、鳴の……その、彼女だけど、そういう事に注文をつけるのはどうなんだろう。 そもそも、鳴がどういう対応をしたら私の不満が無くなるのかもイマイチ分からなくて、結局その事については口に出したことはなかった。
そういう事に出くわすこと自体、珍しいことだったから、ということもある。

試合前のアップ中は基本的にアップに集中しているし(たまに手を振っている時はあるけど)、試合後は何かしらのメディアのインタビューを受けていることが多い。
私も何か声をかけたいなと思ったりもするけれど、正直邪魔にならないタイミングがわからないので、試合後は基本的にすぐに球場を後にしていた。

だから。その日、その場に居合わせたのは、いくつもの偶然が重なった……んだと思う。

稲実の試合を見に行ったけど、鳴が登板することはなかった。何度か試合を見ていればそういうこともある。
その日は通路やゲートから遠い位置に座っていて、試合後、球場を出るのにものすごく時間がかかった。 更に少し離れた場所にあるトイレに行って、混雑していた女子トイレを後にした時にはもうほとんどの人が居なかった。

「成宮くん、写真、いいですか?」
「いいよー!」
通路の先に稲実の選手が何人かいて、女の子達の高い声が聞こえる。
鳴は女の子と並んでピースをして、カメラに笑顔を向けた。
会う……というよりも、見つけたと言った方が正しいかもしれない。いつも通り、愛想よくファンサービスを行う鳴を見て、私はなんとなく足を止めた。 ……なんだか、気まずい。別の出口から出ようかなと背を向けようとした時に、その言葉は聞こえた。

「あの、よかったらメアド教えてもらえませんか?」

ピシリと、どこかにヒビが入ったような音がした……気がした。

「なんで?」
鳴の声が一気に低くなった。更にさっきまでは笑顔だったのに、無表情になっている。基本的に鳴は表情が豊かだから、無表情な顔なんて久しぶりに見た。
「その……」
「悪いけど、そういうのは断ってるから」
さっきまでとは比べものにならないくらい冷たい声。

「……ごめんなさい」
態度の落差に驚いたであろう女の子は、友人と思われる子に慰められながら去っていった。


「あ、!」
見つかってしまった。
その瞬間、さっきまでの無表情はどこかへ行って、いつもの笑顔を向けた鳴がこちらに走ってきた。
「久しぶり! 来てたんだ!」
「オイラ今日出番無くってさー」と登板しなかった割にはご機嫌なようで、鳴はペラペラと話している。

「鳴、さっきの……」
「さっきの?」
「女の子に声かけられてたの……」
「あぁ、見てたの? 覗き見なんて趣味悪いよ」
「急に声低くなるからビックリしたよ」
「そう?」
「そう!」
他人の私でも女の子に同情してしまうくらいの態度だった。
「別に握手とか写真とかはいいんだけどさー。メアドは無しでしょ」
「……鳴のことだから、可愛ければ笑顔で交換するのかと思ってた」
俺のことそんな風に思ってんの!? そんな訳ないじゃん! がいるのに!」

鳴の、こういうところはズルいと思う。こんな風にストレートに気持ちをぶつけられると、何も返せなくなってしまう。鳴は「妬いた? 妬いた?」なんて嬉しそうにしていたけど。

も男には連絡先とか教えないでよ! 俺がいるでしょ!!」

「鳴! 集合!」
同じ稲実のユニフォームを着た人に声をかけられて、「またね!」と言い残して鳴は去って行った。

一人残された私は、球場を後にする。顔の熱が引くのは、時間がかかりそうだった。