君がいない春のこと

入学式よりも早く、鳴は稲実の寮に入るために家を出た。大きめのリュックを背負って行った鳴の後ろ姿を、角を曲がるまで見送った。
携帯があるから連絡は出来るけど、なんだか心細いというか、ぽっかりと穴が空いたような気持ちになる。


そして入学式を迎え、新しい生活に慣れようとしているとあっという間に4月が終わった。

鳴との連絡はかなり不規則になった。主にメールのやり取りだけど、当日に返事が返ってくることは無くて、3日で返ってくればいい方。
電話なんて当然出来ない。

元々入学したらこうなることは予想していたので、あまりショックではなかったけど、やっぱり寂しい気持ちがある。
ただ、それ以上に野球の邪魔になっていないかがずっと心配だった。

『あんまり連絡しない方がいい?邪魔になってない?』

打ったメールを送信するか結構悩んだけど、えいっと送信ボタンを押した。……押してしまった。

そのメールの返事は、珍しく次の日に返ってきた。

『邪魔になる訳ないじゃん! からのメール読むの気分転換になるから送って!! 返事返せて無いけど!!』

この返事にあまりにもホッとして、大きなため息をついてしまった。
想像以上に大きかったらしく、お母さんに何があったか聞かれたくらい。
よかった。邪魔になってなくて本当によかった。

それから、私たちのメール交換……ではなく、私が一方的に送り続けるメール送信が始まった。
しつこ過ぎず、間を空け過ぎないように間隔を探りながら、通学の電車の中でメールを打つ。

この先、鳴が居ない春を過ごすのが何年も続くことを、この時の私はまだ知らない。