世界に一つだけの
誕生日プレゼントは毎年交換しているけれど、基本的にお互いに欲しいものをリクエストする形になっている。
鳴からのリクエストは野球用品が多くて、大体が消耗品だからそれだけじゃ味気ないような気がして、
小さいものだけど野球以外のものも一緒に渡すようにしている。
12月。お母さんと一緒にショッピングセンターに行ったときにスポーツショップに寄ってプレゼントを選ぶ。
今年はバッティンググローブをリクエストされていた。
「こっちとこっち、どっちがいいかな?」
「どっちもいいわねぇ。お母さんはこっちが好きかな。でも鳴ちゃんならどっちも似合いそうだし、いいわね」
白と黒のグローブを横に並べてうんうんと唸る。白いのはシャープでかっこいいし、黒いのも少し大人な気がしてかっこいい。
なんて難しいのだろう。でも鳴は黒よりも白いイメージかな……でも黒だとあんまり汚れが目立たない……。ど
っちにしろ土がつくから関係ないかなぁ……。
悩んだ末に、黒に決めた。頭の中で新しい黒いグローブをはめた鳴が得意げに笑いながらバットを構えている。
うーん、かっこいいな。視線を上にあげたところで、宣伝用のポップが目に入った。
『刺繍サービス始めました! 名前を入れてあなただけのグローブに!』
ベルトの部分に刺繍が入れられるんだ……。
「、決まった?」
「うん。黒にする。お母さんこれ見て」
「……へぇ、刺繍入れられるのね。いいわね。世界に一つだけのグローブになるのね」
世界に、一つだけ……!!
母のその言葉にすっかり魅入られた私は、会計レジで店員さんに刺繍のサービスをお願いした。
「LOVE、とかにしたら?」
「もう、お母さん!」
さっきは凄くいいことを言っていたのに。もう。
刺繡サービスは始まったばかりということで、少しだけ割引キャンペーンを行っていた。ありがたい。
文字は無難に名前にした。緊張しながら申込用紙に「成宮」と書くと、なんだか照れ臭かった。……たぶん、お母さんが余計なこと言ったから。
次の週になって、刺繍が出来上がったとお店から連絡があった。
お母さんに取りに行ってもらうことも出来たけど、なんとなく自分で行きたくてシニアの練習が終わった後にお父さんについてきてもらって再びショッピングセンターを訪れる。
「こちらになります、ご確認ください」
ご確認ください、って言われても。文字が合ってるのはすぐにわかるし。
なんとなく少し時間をかけた方がいいような気がして、頭の中で『成宮』の字を書いてグローブをグルリと回してから「問題ありません」と返した。
青い包装紙に白いリボンでラッピングしてもらって、無事に帰宅。あぁ、写真を撮っておけばよかったかな、お母さんに見せられない。
……いや、誕生日の日に、鳴がつけたところを写真に撮ろう。
名前が入った、世界に一つだけのグローブ。渡すのが楽しみだ。鳴はなんて言うかな。
そして年が明けて迎えた1月5日。もうお正月気分はすっかり抜けて、街も家も通常運転。成宮家でケーキをごちそうになった後、鳴の部屋にあがりこむ。
「これ、プレゼント」
「ありがと!」
「ねぇねぇ、開けて!」
「そりゃ開けるけどさ。グローブでしょ?」
普通のグローブだと思っている鳴の反応が楽しみ過ぎて笑いが止まらない。
「顔気持ち悪いよ」
「ちょっと! もう、プレゼント返してよ!」
「もう貰ったから返しませーん!」
気持ち悪いとは失礼な! 私の気持ちを他所に鳴はビリビリと包装紙を破いていく。
そして…………。
「黒か、かっこいいね。…………あ!! 名前入ってる!!」
ふふふ、と得意げな顔をしてしまう。多分今私の鼻は高くなっていると思う。
黒のグローブに白い糸で刺繍された「成宮」の文字。文句なしにかっこいいと思う。
「どう?」
「最っ高!! ありがと!」
早速グローブを手にはめる鳴を携帯で撮影した。やっぱり、お店で想像した通り似合ってる。大満足だ。
鳴は名前入りのグローブをお姉ちゃんとおばさんに見せびらかして(おじさんは仕事から帰ってきてなかった)、
早速試し打ちをすると言って飛び跳ねながら庭に降りていった。
「! ボール出して!」
キラキラとした笑顔を振りまきながらネットに向かってバットを構える鳴。
今はユニフォーム姿では無いけれど、やっぱり名前入りの──世界に一つだけのグローブは最高だ。そう思いながら、私も成宮家の庭に降りた。
2022年お誕生日記念です。