無言の催促
金曜日の夜、鳴からメールが届いた。
写真が1枚添付されていて本文には何も書かれていない不思議なメール。
首を傾げながら添付されていた画像を開く。
それは、稲実野球部の練習試合の予定が記載されたプリントを撮った写真だった。
「………」
この日程で練習試合があるから見に来い、という鳴の無言の催促を受け取った。
本文に何も書かれていないのが鳴らしいと言えば鳴らしい。
忙しいのはわかる。でも、一言くらい、打ってくれてもいいじゃないか。これは決してワガママでは無い……と思う。
次の日、成宮のおばさんにメールの内容を話すと、試合を見に行くなら鳴に渡して欲しいものがあると頼みごとをされた。
封筒に入れられたそれは遠征を了承した旨を記した書類らしい。
受け取った封筒を折れ曲がらないようにファイルにしまう。
そして、次の日曜日。神奈川の強豪校との練習試合が稲実のグラウンドで行われるため、私は稲実のグラウンドに足を踏み入れた。
『おばさんから頼まれて、渡すものがあるから試合終わった後少し会えない?』と鳴にメールを送ってはおいたが、やはり、返事は来ていなかった。
練習試合は稲実の勝利。鳴は7回からマウンドに上がって、相手チームからいくつかの三振を奪っていた。
練習試合が終わって観客が続々と帰っていく中、私は鳴の姿を探す。キョロキョロと視線を彷徨わせると、少し遠くに鳴の姿を見つけた。見覚えのある——確か、カルロスくん、白河くんだったはずだ——部員と一緒にいる。何か用事なのかも、それが終わるまで待っていた方がいいのかなぁと思っていたら、鳴はカルロスくんと白河くんを引き連れて私のところにやってきた。
「!」
「鳴」
鞄の中のファイルを取り出し、おばさんから預かった封筒を渡す。
「はいこれ、おばさんから」
「ありがと」
封筒の中身を軽く確認した鳴をしげしげと眺める。背が伸びたようだ。
「えっと、そちらは」
「カルロと白河! 大っきい方がカルロね。のこと話したら見たいって言うから」
私は至って普通の人間だけどなぁ。
「鳴がいつもお世話になってます」
頭をぺこりと下げた。カルロくんも白河くんも無言だったけど、なんだか驚いているような表情をしている。
鳴は「何それ!」と不満そうだった。
「鳴、背が伸びたね」
「そう! やっぱりわかる?」
鳴にとって嬉しい話題だったようで、途端にご機嫌になる。カルロくんの視線が私の方に動いた。
「成宮!」
遠くに集まっている部員の人から名前を呼ばれて、鳴は「またね!」と言葉を残して去っていった。
試合に勝ったのおめでとうって言い忘れてしまった。あとでメールしよう。
「なぁ」
挨拶して私も帰ろう、としたところで、カルロくんに話しかけられた。両肩をがしりと掴まれて、身構えてしまう。
「何か!?」
「なんで稲実に来なかったんだ!?」
「えぇ!?」
何を言われるかと思えば。
私が、稲実に行かなかった理由。
「一番の理由は、遠かった、からです……」
カルロくんの剣幕にびびって思わず敬語になってしまった。私の理由を聞いて、カルロくんはそっぽを向いて顔を歪めた。白河くんには舌打ちされた。なんでなの。
「お前がいれば……!」
「え、えええ……?」
気のせいでなければ、悔しがられているようだ。掴まれた肩が少し痛いので離して欲しい。
「あーーー!! カルロ!! に何してるんだよ!!」
さっきまたね、と去っていった鳴がアイシングをつけて走ってくる。その声を聞いてカルロくんは私の肩から手を離した。
「悪い」
「い、いえ……」
鳴が再び私の元に来たのと同時に、カルロくんと白河くんは去っていった。
「! なんかされた!?」
「大丈夫だよ」
今度は鳴に両肩を掴まれたけど、痛くはなかった。よく知っているぬくもりにほっとする。
あまり長く話す訳にもいかず、鳴ともすぐに別れて私は稲実を後にする。
帰宅後、練習試合勝利のお祝いと、写真だけのメールについて文句を記したメールを送る。鳴からの返信は二日後に来た。
『練習試合の勝利、おめでとう。でも日程のお知らせは写真だけじゃなくて、何か一言あってもよくない?』
『伝わったんだからいーじゃん! 俺活躍するから出来るだけ見に来てよね!!』
これ以上言っても無駄なパターンだな、と私は小さくため息をついた。