もしもし、今何してますか?

その日、朝練を終えた更衣室はどこかザワザワとしていた。

「二月十四日か……」
「バレンタイン…………」
「レギュラー陣はいいよな。甲子園出てるとか絶対チョコ貰えるじゃねぇか」
「俺なんか去年平井宛のチョコ渡されたぞ」
「うわ」
「きっつ……」

あぁ、そうか。今日は二月十四日だったのか。去年までは特別な一日だったけれど、今はそうではない。今年のバレンタインは俺の中ではもうとっくに終わっているからだ。『去年は遅くなっちゃったし、そんなに凝ったものは作らなかったから』と言いながらがくれたのはシフォンケーキ。高校の友達に教えてもらったらしい。チョコやクッキーは貰ったことあるけど、思えばケーキは初めてだったかもしれない。ふわふわに膨らませるのが難しくて何度か試してみたという。そうやって時間をかけてくれたのが何よりも嬉しかった……と制服に着替えながら思い返す。
先輩たちの矛先は俺では無くて翼くんに向かっている。……まぁ、翼くんモテそうだもんな。先輩たちが翼くんをいじっている間に、俺は部室を脱出した。

***

昼休み。昼食を終えてクラスメイトと話しているところに、「成宮ーーー!」と叫びながら先輩が飛び込んできた。

「お前チョコ断ってるって本当か!?」
「何で知ってんの?」
「女子の間で噂が流れてて、本当かって聞かれたんだよ! お前差し入れは嬉しそうに貰ってるじゃねーか」
「義理は貰ってるよ。本命っぽいのは断ってる」
「贅沢言ってんじゃねーよ!」
「俺の勝手でしょ! 本命はもう一個貰ってるからいいの!」
「またお前の夢の話かよ。大体その彼女は地元なんだろ? いつ貰うんだよ」
「正月に前倒しで貰ってんの!」

一部を除いて部内ではは『俺の夢の彼女』という定説になっているから、今回のも俺の理想として扱われているらしい。理解のある彼女とはそんな風に言われるほどに希少なのだろうか。身近にいるからわからない。

「けっ!」と言いながら先輩は去って行った。本命は断るということが上級生にも広まればいいのに、とその背中に舌を出しながら思う。

「成宮君、ひとつ食べる?」
クラスの女子がタッパーに入っているクッキーを一つすすめてきた。友達用だろう、簡素な作りなそれを遠慮なく貰う。
「ありがと!」
正直、これくらい気軽なのが一番楽でいい。お返しのことで時間を取られるくらいなら、断った方がずっと楽なのだ。
チョコクッキーをつまみながらずっと前にに貰ったクッキーを思い出す。何かやたら凝ったトッピングしてたよな。いろんな色の砂糖でカラフルに彩られたクッキーを思い出す。
………………あーあ、に会いたくなっちゃった。