きみはまた僕の夢を見る

ぶるぶると震える携帯を手に取る。鳴からのLINEだ。言葉は何一つなく、ただ一枚の写真が送られてきた。
いつもの練習試合の日程かと思えば、少し違った。

東京選抜?

写真を拡大してプリントの概要欄を読む。
東京都の野球向上のため、都内の一握りの選手を集めるらしい。
そして予定の中には大学チームとの試合の予定と、日米親善としてアメリカの高校生チームとの試合があると書かれていた。

アメリカの高校生チームとの試合……。……つまり、日本代表ってこと!? いや、冷静になろう、全国から選手を集めた訳じゃないから、違うといえば違う。
……でも日本代表だと思えば日本代表だと思う。

土曜日は大学生のチームとの対戦で、アメリカのチームとの試合は6月1日の日曜日。
その日は何も予定がなかったはず。よかった。
ウキウキとしながら手帳に予定を書き込んだ。



***



そして、六月一日。

ドキドキする胸を押さえながら、グラウンドの客席に入る。

ベンチの前に集まっている選手たち。ユニフォームはバラバラだけど、みんな同じ帽子を被っていた。
オペラグラスで確認してみれば、帽子に「JAPAN」の文字。胸のドキドキが加速する。

やっぱり、日本代表だ!

これはなんとしても鳴のいいところを写真に撮りたい。いつでもデジカメを構えられるように、鞄から取り出して膝の上に置いた。

キャッチャーは帝東の乾くん。(鳴がよく名前を言うからピッチャーとキャッチャーの名前は結構覚えているのだ。)
ファーストの人になんだか見覚えがある気がして、オペラグラスで確認したら御幸君でびっくりしたり、薬師や三高の選手を見つけてはドキドキしたり、アメリカチームの身体の大きさに驚いたり。身体が大きいからかスイングもパワフルだ。……隣に並んだら鳴が結構小さく見えそう。体格、気にしてるもんなぁ……。結成されたばかりのチームだからチームワークや連携なんかも気になる。

御幸くんがヒットを打って日本チームが先制! けれどアメリカチームも直ぐにホームランで反撃して一点差。カルロスくんのダイビングキャッチに叫んで、長髪のピッチャーに驚いていたところで、遂に鳴の出番がやってきた。

小さいころから将来の夢に「沢村賞」や「大リーグ」なんて言っていたけれど、今の鳴のボールはアメリカの高校生にどう映るんだろう。

どんな反応をするのか見たくて相手バッターの顔を注意して見ていたら、驚いた顔をしていて頬が緩む。打ち損じてファールの後に、チェンジアップで空振りの三振。やった!

鳴はバッターを順調に打ち取っているけれど、不意に乾くんがボールを零した。凄い、凄い!ボルテージがどんどん上がっていく。一人で言葉も発することも無く興奮していたら、バッターの振ったバットがキャッチャーの後頭部にぶつかった。


乾くんがベンチに下がって、交代の時に選手が出てくるのが遅いなぁと思ったらキャッチャーのシルエットが変わっていた。オペラグラスで見てみると、まさかの御幸くんだった。
え? 夏の予選があるのに大丈夫なのかな? 
でも何も考えずにバッテリーを組ませたりはしないよね……。
心臓が耳の側に移動したみたいにドキドキしているのが聞こえる。でも…………。
鳴がいつか言っていた、最強チームが今完成した。私の胸の中は、『大丈夫かな』よりも『凄い!』の方が大きかった。
いつか見てみたいと思っていた夢のバッテリー。
今この瞬間を最大限に満喫しよう。きっと直ぐに終わってしまうから。


鳴がアウトを一つ一つ積み上げていくたびに、私のドキドキも増していく。御幸くんがボールを零した時、やっぱり私は叫んだ。

カルロスくんの盗塁、白河くんのヒットで一点を返して、更に山岡くんのヒットで同点。試合は振り出しに戻った──


午前中の試合が終わって、お昼休憩。何だか胸がいっぱいでまだお腹が空かない。LINEを開いて鳴にメッセージを送る。
『30秒でもいいから会いたい』
どうしても、この感動と興奮を伝えたかった。



***



午前中の第一試合は惜しくも同点引き分けで終わった。俺が出たからには勝つつもりだったけれど、あと一歩届かなかった。負けたんじゃないけど、やっぱり悔しい。
昼食の弁当を食べ終えて、携帯を開いたら珍しくからのメッセージ。試合の日程の時、日中に連絡が来るのは珍しい。集中力が途切れたりしないかと気にしている彼女からの連絡は大体が夜なのだ。

『30秒でもいいから会いたい』
こんなに熱烈な言葉をもらったのは初めてだ。どうしたんだろうか?
「鳴、どうした?」
「ちょっと出てくる」
「便所か?」
が来てるからちょっと会ってくる」
「お、俺たちも行こうぜ」
「なんでだよ!」
「いいだろ」

そう言ってついてくるカルロに白河、山岡の三人。何も良くないだろ。いつも会えない恋人の逢瀬を邪魔するなんて、馬に蹴られてしまえばいいのに。……甲子園の後で。

球場を出て、観戦用の通路の一角でと待ち合わせ。すでに到着していたに声をかければ、もう、凄かった。

「写真!! JAPAN!!」
「テンション凄いな!?」
「カルロくんも白河くんも! 御幸くんも!!」
トイレの帰りか通りがかった一也にまで声をかけている。ここまで興奮しているのは相当珍しいから、付き合いの長い一也でも見たこと無いだろう。皆若干引いてる。

「俺の写真があれば充分だろ!?」
「そうだけど! せっかくだし!」
(((充分なんだな)))

俺、今カルロ達が考えてることが手に取るようにわかる。

「カルロくん盗塁すごかったよ! 白河くんと山岡くんのヒットも! 叫んじゃった!」
「俺は!?」
どうしてこのメンツで真っ先に褒めるのが俺じゃないのか。納得いかない。
「鳴ももちろん凄かったよ! 乾くんも御幸くんもボールこぼすとは思わなかった」
「るせー!」
「ごめん! でも凄く贅沢な試合だったね」

眉根を寄せた一也に謝りながら、がデジカメを構える。お目当ては今回選手に配布された帽子の「JAPAN」の文字のようだった。

「つーかなんかすごい双眼鏡使ってなかった?」
「オペラグラス! バイト代で買ったの!」

そういえばそんなことをいつかLINEで送ってきたような気がする。デジカメもバイト代で少しいいのを買ったと言っていた。

「帽子かぶってみる?」
かぶっていた帽子を取っての前に出してみるけれど、彼女の反応は予想とは違っていた。
「そんなこと恐れ多くて出来ない。気軽に言っちゃダメだよ」
((((リスペクトがすげぇ))))

「そろそろ戻った方がいいよね」
久しぶりに会えて嬉しいけれど、そう長い時間を過ごす訳にもいかず。
「無理言ってごめんね、ありがとう」
「ダイジョーブ! またね!」

五人の大所帯でロッカールームに戻る為に歩き出す。少し間を開けてから、の方を振り返ってみれば。

「鳴!」
が声をかけるタイミングとバッチリ重なる。親指を立てて振り返った俺の姿を、は写真に撮っただろう。……あの、俺の写真を撮るために買ったカメラで。



***



「お前らまだ続いてるんだな」
「あったりまえじゃん!」
「いや実際すげぇと思ってさ。連絡とかこまめに出来なくね?」
「出来ないね」
「つーか学校違うと会えないだろ、寮だし」
「会えないね」
「…………よく続いてるな」
「ほんとにね。でもあんまりネガティブなこと言ってこないんだよね。なんか離れてることを楽しんでいるフシもあるし」
「すげーな」
「凄いと思うよ。『俺がいなくても普通に楽しいことはある』とか言うと思ったらバイトして高い双眼鏡とデジカメ買って、試合がよく見えるとか言うし」
「…………すげぇな」
「…………凄いでしょ」
(ちょっと複雑だけど……)
は昔から飴と鞭のバランスがよかったしな……。…………でも鳴のやつ、少し複雑そうだな……)

Title : 確かに恋だった