憧れの舞台へ

時間が経つのが、いつもよりもずっと遅い。無駄にSNSを何回も何回も更新してはため息を吐く。
こんなにドキドキしているのは、ドラフト会議の時以来かもしれない。

テレビのチャンネルを順番に切り替えても、最近話題の芸能人についてのニュースしかやっていなくて……。ソワソワとした気持ちを一人で持て余す。

後一分で会見が始まる。
テレビはようやく、記者会見の会場を映しているカメラに切り替わって──フラッシュの光が瞬く中、侍ジャパンメンバー発表の会見が、始まった。

挨拶の言葉が終わって、いよいよ、待ち焦がれていたメンバー発表。
監督が紙を見ながら口を開く。
成宮。成宮鳴って言って。鳴の名前を呼んで!
――――成宮鳴』
「やったーーーーーーーーーー!」
私の念が通じたのかは分からないけれど、監督が一番最初に呼んだのは鳴の名前で──私は近所迷惑とか何も考えずに、テレビの前で叫んでいた。監督は次に御幸君の名前を呼んだ。

『球団の方繋がりますか? 行けますね。成宮選手です!』

記者会見が終わって、テレビは別の場所──球団の練習場だ──に切り替わって、鳴の姿が映る。

『成宮選手! 選出おめでとうございます! 侍ジャパンですよ!』
「あぁ、そういえばそんな時間だったっけ」
今日も今日とて野球に集中している鳴は、昔から変わらず、いつもと同じ様子で。私がドキドキしているのをいつも「大げさ」と言っている。多分、私たちはずっとこうなんだろうなぁ。

『そっか。ま、選ばれると思ってたし!』

……やっぱり、鳴は、鳴だった。



***



……最近、前よりもずっと、豪華な料理を作る機会が増えた。
お祝い事が多いのは嬉しいからいい、けれど……問題は料理のレパートリーである。
そろそろ献立を増やしたい。明日からレシピ調査強化月間にすることに決めて……。玄関ドアの開く音。「ただいまー」という鳴の声。私は携帯も料理もほっぽって、飛び跳ねるように玄関に向かった。

「おかえりなさい!」
「予想よりもずっとはしゃいでるね、
「だって! 侍ジャパンだよ! ねぇ、鳴……」
「待って。分かってるから」
鳴が背負っていた鞄を床に降ろす。そして、鞄を開けて、取り出されたのは縞模様の布。
「じゃーーーーーーん!」
「やったーーーーーー!」

掛け声とともに広げられた、縦縞が入った、侍ジャパンのユニフォーム。
U-18で着てから、何年の時が経ったのだろうか。
ずっと、ずっと憧れていたユニフォーム。
両手を上げて万歳をしそうなくらいに、嬉しい瞬間だった。



***



コンロの火を止めて──料理は少しだけ焦げてしまった──改めてユニフォームを眺める。

「いいね! レプリカユニフォームいつ出るかな? グッズもどんなの出るんだろう。通販混雑するかな?」
「少し落ち着きなよ。関係者なんだから貰えるし」
「そうなんだけど! でもやっぱり買いたい!」
「…………昔からだなぁ」
「うん。買えた時の達成感? がなんか好きで……」
「まぁ別にいいんだけどさ」
「貰った分はおばさん達に渡すことが多いし」
「義理堅いよね。別にそこまで気にしなくてもいいのに」
「そういう訳にはいかないよ。凄いね、侍ジャパンだ。応援グッズどんなの出るかなぁ?」
。誰よりも応援してよね!」
――――もちろん! 任せておいて!」

世界を相手に戦う鳴を、今よりももっと応援して──サポートしなければ。私はそう気合を入れた。