あなたでも手に入れられないもの

ソーシャルゲーム。高校生の時、友達に誘われていくつかプレイしたことがある。私がスマートフォンに機種変更したときには既に課金で破産した人がニュースでよく取り上げられていたのもあって、母からも注意されていたし、手を伸ばさないようにしていた。
お年玉も、お小遣いも、バイト代も使い道が決まっていたのも大きい。
もちろん、鳴の試合を見に行くためだ。
友達にはいわゆるガチャにハマっている子もいたけれど、私は徹底的に無課金主義を貫いていた。そして、それは死ぬまで変わらない性質だと思っていた。
今、この瞬間までは。


***


プロ野球をモチーフにしたゲームに触れる機会は何度かあった。パワプロのデフォルメされたキャラクターは目を引いたし、テレビで活躍している選手たちがゲームに登場するのも面白くて好きだった。
テレビの中の出来事が、今は次々に現実になっている。
鳴はプロ野球選手になった。
そして遂に、プレイしていた野球ゲームへの出演を果たす。
「…………あぁ……」
『パワフルプロ野球に成宮鳴登場! 記念スカウト開催!』
SNSを見て嬉しさと悲しみを同時に味わったのは初めてだ。
鳴がプロの野球選手になってから、何度も新鮮な驚きを運んでくる。
ゲームに出てくるあのデフォルメされた鳴のイラスト。可愛い。いいなぁ、欲しい。でも……きっと、課金しないと手に入らない。みんなが欲しいと思うものは、ソーシャルゲームではお金を払わないと手に入らないのだ。しかも、千円なんて可愛い金額じゃなくて、三万とか、十万を越えるものもある。
よくない。試合やグッズにお金を使った方がいい。ガチャって目的のものが出なければお金が全部無駄になる。試合のチケットやグッズならば対価がある。だから、ゲームに課金するよりも有効な使い道だと頭では理解しているのに。自分の思考がよくない方向に進んでいくのがわかる。
「…………課金する人っていつもこんな気持ちなんだ……」
…………おやつでも食べて気分転換しよう。昨日買ったプロ野球チップスの袋を開けた。
カードは天久くんだった。
ランダムの──自分で内容を選べない──商品は随分と増えた。ネットでは大体の人が嫌っているけれど、やはり売上に繋がるからだろうか、きっとこれから先もなくなることは無いのだろう。

ランダムのグッズって、一度手を出してしまったら、もう引き返せないような気がするのだ。
試合を見に行ってたまたま隣の席だった人に、ランダム販売の缶バッジを譲って頂いたことがある(もちろん代金はお渡しした)。自分とランダム販売のグッズの接点なんて、それくらい軽いものだと思っていたのに。ポテトチップスを口に運んではっとした。プロ野球チップスのカードだってランダムだった。

私の部屋のグッズを見るたびに、鳴は『貰えるから言って』と口にする。でも、私から声をかけたことはない。アクリルスタンドとか、タオルとか、ユニフォームとか、ランダム販売の缶バッジなんかも、鳴に言えば――それこそLINEででも――私の手元にやってくるのだろう。でも、それでいいの?
球団にとって選手とは、大切で貴重な〝商品〟の一つだ。お金を稼いで会社を経営して、鳴はそこからお給料をもらっている。それに対価を支払わずに見返りを得てしまうのは、〝プロ野球選手〟という職業を蔑ろにしているような気がする。
月は普通のファンとは立場が違うでしょ』
鳴ならきっと、たぶん、絶対そう言うだろう。
確かに、私は鳴の恋人だ。でも、プロ野球選手としての成宮鳴のファンでもある。一人のファンとして……プロ野球選手をリスペクトする気持ちは、きっと、ずっと変わらないだろう。
プロ野球チップスを食べ終えて、袋をゴミ箱に捨てる。
こんなに頭を使いながらおやつを食べたのは初めてかもしれない。
「………………よし」
アプリの課金はしない。でも、今からガチャに備えて準備を始めよう。
そもそも、グッズとゲームのデータでは前提がまるで違う。
ソーシャルゲームを運営している会社は球団ではないのだから、鳴に頼んでもパワプロの鳴が手に入る訳がない。血迷って変なことを頼むところだった。危ない危ない。
ひとまずゲームアプリを起動して、ログインボーナスを確保した。
無課金でも、できるだけのことをしよう。


***


パワプロの成宮鳴が私のアカウントに来てくれるのは、実装から三か月後のことで……その時、私は大学のカフェテリアで悲鳴を上げた。