登場キャラ以外の人物との性的関係を匂わせる描写があります。
なんでも許せる方のみどうぞ。






























最期から二番目の別れ

静かな部屋の中には穏やかな空気が流れていた。



ファーストフラッシュと焼き菓子の香りがふんわりとやってくる。この部屋はいつも、紅茶と花と、甘いお菓子の匂いがする。
シンプルだけど美しく豪華な家具に囲まれて優雅にお茶を飲む目の前の彼女は正しくプリンセスと呼ぶに相応しい。ブリタニア人とは異なる褐色の肌も美しく……ブリタニア風とは異なる、体に沿う形のドレスが似合っていた。
ウエストをきつく締め、スカートが嵩張るブリタニアのドレスよりもこちらの方がルルーシュは好きだなと思うのだった。


「日本とは……随分と遠いところですね」


アンティークの地球儀はいつもチェストの上に飾られていたけれど、彼女が手にするのを見るのは初めてだ。
美しく、けれどどこか怪しくもある──ルルーシュ自身はまだ妖艶という言葉を知らず、後にそれが彼女を表すのには一番適している言葉だと後年思うのだ──女、いや少女はたおやかに笑った。
細くしなやかな指が指し示すのは極東の小さな島国、日本。自身がこれから向かう場所だ。



「私はあまり詳しくはないのですが……。ナナリーにとって、暮らしやすい場所なのでしょうか」
「……ここより暮らしやすい場所なんて、ないですよ」

「……それもそうですね」

伏せられた目に長く豊かな睫毛の影が落ちる。



ここ、神聖ブリタニア帝国の宮殿より暮らしやすい場所なんてないだろう。皇族である自分達にとって。



「……ナナリーの容体は?」
「ようやく落ち着いたところです。だからこそ、こうして姉上にご挨拶に伺えているんです」



姉上。

ルルーシュがそう呼ぶ少女は厳密には血のつながりはなく、姉弟ではない。ましてや、養子として籍を同じくするのでもない。
ブリタニア皇帝の名の下に〝大公〟という地位を与えられている彼女は、自分が認めたごく一部のものに自分を「姉上」と呼ばせることを許した。──たとえ相手が少女より年上だとしても。

故に彼女は、皇位継承権は持たないものの、一部では〝不動の第一皇女〟と呼ばれている。

けれど正式な身分を持たず政治的な影響力も持たない彼女は、皇帝に対して確かに影響力を持っている。


「姉上」と呼ぶことは一部の者に宗教のように崇められている彼女に「気に入られた」というステータス。そしてその人数は片手で数えられるほどしかいない。




「早くよくなるといいですね」




聖母のような笑みを浮かべてはいるけれど、この言葉が本心ではないことをルルーシュはよく知っている。
皇帝から大公という地位を押しつけられるように与えられている彼女は住まいとしているこの屋敷と宮殿から出ることは決して許されず、そして人前に出ることも固く禁じられていた。



彼女が行くことが出来るのは厳重に人払いがされている屋敷とその庭、そして皇帝のいる宮殿のみ。
彼女が会うことが出来るのは皇帝が認めた一握りの人間のみ。


皇族でさえ、皇帝が認めなければ会うことは決して叶わない。
なぜ自分と同母妹であるナナリーに謁見が許されたのかはずっと疑問だったが……ブリタニアを離れる今となっては些末なことだった。





社交界で父の愛人だと囁かれる年端もいかぬ少女が、側仕え兼護衛の少年一人だけを側に置いて──他の使用人は皇帝が決して認めないという──閉じ込められた屋敷の中で何を思っているのかも……やはり、ルルーシュにとっては些末なことなのであった。



意味のない会話を少し交わして退室し、彼らは長い時間別れることになる。
母を失ったばかりの少年は待ち受ける運命をまだ知らず……。





彼らが再会し、少女の本当の願いを知るのは、まだ先のことである。

Title : 確かに恋だった