登場キャラにとても厳しめです。
なんでも許せる方のみどうぞ。






























純粋と死

柔らかく、美しく、嫋やかな彼女には淡い色の花がよく似合うだろうと思った。そう、例えばピンクのバラのような。ガーベラもいい。白く小ぶりな……カスミソウなんかを添えると一層映えるだろう。花瓶に活けられた花を見て「綺麗です」と微笑む彼女の姿が目に浮かぶ。
そう。あまりにも自然に脳裏に思い描けた。だから──白い百合を沢山用意して、並べることにしたのだ。対面するソファの右側には美しく咲き誇る花を。そして左側には──萎れた花を。
だって、自分は彼女の前途洋々とした旅立ちを祝っている訳では無いのだから。
あぁ、なんと哀れで愚かしいのだろう。
可笑しくて笑いが止まらない。
いつもよりも、少しだけ機嫌良く接することが出来るかもしれない。
だって、彼女は────


「ユーフェミア・リ・ブリタニア。御前に参りました」
薄いピンクのドレスを纏った少女が跪いて、声をかけられるのを待っている。
「久しぶりですね、ユーフェミア。どうぞ、かけてください」
己の口から出た声が、思っていた以上に弾んでいたので──太公と呼ばれる女は自嘲した。
「ありがとうございます、お姉さま」
ユーフェミアは優雅に立ち上がると大公の前のソファに座る。

萎れた花を不思議そうに眺めているユーフェミアの姿が面白くて──大公は笑い声を噛み殺すことに苦労した。
声を出して笑うなんて、一体何年振りだろうか?

「日本へ行くとか」
「はい。コーネリアお姉さまが総督として行かれるので、副総督としてお手伝いをしに」

意気揚々と総督として赴いたクロヴィスが、ゼロと名乗るテロリストに殺された記憶は新しい。
ユーフェミアの表情は険しかった。彼女の来歴と前途、何よりクロヴィスの末路を思えばそれも仕方がないだろう。

「……今まで学校にしか行っていなかったあなたが、副総督ですか」
「……やっぱり、お姉さまも私には無理だと思われますか?」
大公は一瞬、ユーフェミアの目を見て小さく笑うと、「あなたはとても素晴らしいことを成し遂げますよ」と──普段よりも優しい声音で語りかけ、小さく頷いた。
ユーフェミアはその言葉が嬉しかった。何しろ自分の副総督就任には反対する人や苦言を呈す人間が多かったからだ。

何故か自分に「お姉さま」と呼ぶことを許してくれた大公殿下のお考えはまだユーフェミアにはわからないが……彼女の言葉が現実になればいいな、と思うのだった。
大公が話す「素晴らしいことを成し遂げる」自分の姿はまだ想像すら出来ないけれど……自分にできる限りのことをしようと、ユーフェミアは決意を新たにした。

皇女の退室後、花を撤去しようとする側仕えを制止して、大公は百合の香りを楽しみながら紅茶を飲んでいた。

「今回の訪問は随分と歓迎なさっていらっしゃるのですね」
ただ一人大公の側に居ることを許されている使用人──ウィルと呼んでいる──が不思議そうに言う。
「えぇ。面白いことをしてくれますからね、あれは」
「………」

頭には疑問が浮かんでいるだろうに、それを態度にも言葉にも出さない側近の態度が心地よい。

「…………花はまだ、このままにしておかれますか?」
「えぇ」
百合の香りを胸いっぱいに吸い込んで、枯れた花に視線を送る。

「花はいいでしょう。だって、枯れることが出来るのですもの。それに……彼岸へと送り出すのなら、白い花ほど相応しいものは無いでしょう」

大公は手近の花瓶から、咲きかけている花を一輪手に取り──数秒愛おしそうに眺めた後──手にしたそれをぐしゃりと握り潰した。

「殿下」
「ウィル、しばらくは日本の情勢に注目しましょう。……じきに、面白いものがみられますよ」


ゼロという仮面を被ったテロリスト。
時は流れ、いつか……必ず、その時を迎える。
──待てばいい。
静かに微笑みを携えて。

全てを壊す時は、必ずやって来るのだから。