戦友の絆

「あ、―! ちょっといいか?」
談話室でラスティに声をかけられて立ち止まる。駆け寄ってきた彼の後ろには、ディアッカとニコルも居て……一体何の話だろうか。
「ラスティ。ニコル達を引き連れてどうしたの?」
「あぁ。企みごとだ」
人差し指を立てて得意顔をするラスティに連れられて、談話室の隅に膝を突き合わせて座る。……課題の話ではなさそうだし、何なのだろう。
「で、結局何の話なんだよ」
ニコルとディアッカも具体的な話を知らないのか、頭の上に疑問符が浮かんでいる。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。実はな…………」
「もったいぶるなって」
「もうすぐイザークの誕生日なんだってよ!」
「……………………はぁ?」
ディアッカのどこか呆れたような声が、やけに大きく感じられた。



***



「だから、もうすぐイザークの誕生日なんだってよ。八月八日」
「なんで知ってるんですか?」
「この間教官の書類整理手伝ってる時に見えた」
「そういうの、話しちゃダメですよ……」
「名前と誕生日だけだから問題ない!」
「そうかなぁ……」
「それで、俺たちにどうしろっていうんだよ」
「誕生日と聞いたらやることは一つだろ! パーティするんだよ」
「………………はぁ」
「つーかお前らここに入る前から付き合いあるんだろ? こういうの知らなかった訳?」
「知り合いって言っても、そんなに話す機会があった訳でもないですよ」
「うん。なんていうか……具体的な中身のない雑談しかしてない」
「はぁ。これだから上流階級の人間は」
ラスティが大袈裟にため息をついて呆れる。
「パーティって言ったって、どこでするんだよ」
「この談話室以外にどこがあるんだよ」
「ディアッカ、ラスティが言っているのは大規模なパーティじゃなくて、内輪でお祝いしようってことだと思う」
「え?」
「あぁ、そういうことか」
微妙な話の食い違いを正せば、またラスティが少し呆れた。
誕生日にパーティを開くとなれば、自分たちの場合大規模で正式な──招待状を伴うものになるのが自然だ。小さい頃は誕生日パーティなんかよく開かれてお呼ばれしたものだが、成長するにしたがってそういう機会は減っていき、今ではほとんど無い。
は家族とニコル達とお祝いした誕生日を懐かしく思いながら、ラスティの話を聞いていた。

「ケーキは俺が準備するから、それぞれプレゼントを準備しておいてくれ」

カレンダーを見れば、八月八日は日曜日じゃなくて普通の平日だ。次の休みの日にニコルと買い物に行く話をして、その日は解散となった。

「なぁ。イザークが好きそうなケーキ、誰かわかるか?」

……ラスティの疑問には誰も答えられなかった。



***



訪れた日曜日。ニコルとショッピングセンターに赴いて、プレゼントを探す。
は何をプレゼントするんですか?」
「私は本にしようと思って」
「確かに、イザークはいつも本読んでますね。何の本にするんですか?」
「前地球史について話したから、それかなぁ。ニコルは?」
「僕はちょっといいペンとかにしようかと」
「成程」
データ化した社会と言っても、書類に署名する機会は多い。ニコルらしい選択だ。
「じゃあ先にペンを見ようか。私の本選びは時間がかかるかもしれないし」
「わかりました」

文房具店で高級品のコーナーに足を運ぶ。……こういうコーナーに訪れるのは初めてのことだ。声をかけてきた店員にも相談して、ニコルは落ち着いた雰囲気の黒いボールペンを購入した。

「イザークが持ったら凄く似合いそうだね」
「いいのが見つかってよかったです」

容姿のせいだろうか、高級品が似合う印象が強い。

本屋に移動して、歴史分野の棚の前に立つ。選択肢の多さに少し頭を抱えそうになった。

「有名なやつだともう持っている可能性もあるし……」
「そうですね。それに……一口に地球史と言っても色んな分野があるんですね」
「そうなんだよね……」
地球にも様々な地域があるし、時代も細かく分かれているし、分野も細かく分かれている。地理、食事、建築、風習、言葉。特に何も考えずに本にしようと思ったが、中々難しいものを選んでしまったのかもしれない。そして、自分はあまりイザークのことを知らないのだと、は心の片隅で思った。

結局、は図や写真による解説が多い図鑑のような本を買った。付録として旧諸国の国旗事典がついている。

「決まってよかった……」
「お疲れ様です」
「ディアッカとラスティはもう買ったのかな」
「二人は来週買いに行くと言ってましたよ」
「買ったものだけ話しておこうか」
「そうですね」

寮に帰ってディアッカとラスティに簡単に話をして──何故かそのままラスティと課題をすることになった。

「本当は飾り付けとかもしたいんだけどな」
「談話室でやるなら許可がいるんじゃないですか?」
「そうなんだよな~」
「ラスティはどうして……その、イザークのためにそこまで?」
「イザークのためってか、結局は自分が騒ぎたいからだな」
「そうだったんですか」
「まぁ一番はそれだけどさ、誕生日と知ったら祝わないと駄目だろ」
「……ラスティらしい」

本当に、ラスティらしい理由だった。



***



そして迎えた八月八日。夕食後にイザークを呼び出し──

「ラスティ、何の用だ──うわっ!?」
「ハッピーバースデー!」

──クラッカーの音と共に、ささやかなパーティが始まった。


ラスティが準備した小さなティラミスを切り分けて食べながら、各々が準備したプレゼントを渡していく。
ニコルはペン、ディアッカは革の飾りのキーリング、ラスティはいいところのタオルセット。そしての本。

「しかしよく知ってたな」
いつもよりもずっとゆっくりとティラミスを食べ進めるイザークは、ラスティのことをしきりに感心していた。
「教官の書類整理手伝った時に見たんだ!」
「…………そういうことは大きな声で言うな」
「僕もそう言ったんですけどね」
「これぐらいの悪用なら可愛いもんだろ」
「開き直るなよ」
「本音はもっといろいろやりたかったんだけどな~」
「アカデミーじゃ無理があるだろう。しかし……感謝する」
「イザークがお礼言った!」
「お前たちは俺を何だと思ってるんだ! 俺だって礼くらい言う!」

結局そこからは誕生日関係なく騒いで──食べきれないケーキを捌く為に多くの女子生徒が呼ばれた──結局、達四人は主犯格ということで代表して叱られ、クラッカーの使用を咎められて反省文を書くこととなった。
けれど、アカデミーでの大切な思い出の一つとなったのだった。

2022年お誕生日記念です。