夕暮れの街並み

遠く、建物の向こうで、ゆっくりと陽が沈んでいく。
時間があれば、高いところから三門の街を眺めるのが好きだった。
川が流れていて、橋があって。
その向こうには、廃線になった無人駅がある。

太陽が沈めば、世界は夜に包まれる。
……今日も無事に一日を終えられたと思うにはフライングなのだけれど……。
日付が変わる真夜中よりも夕暮れの方がずっと、一日の終わりを実感するのはどうしてなんだろう。

「………………」

時刻は十八時。そろそろ日勤の任務が終わって、夜勤シフトに交代するところだ。
基地の周りは警戒区域になっていて、街の営みが見られないことが残念でならない。
お腹を空かせて家に帰る学生や、夕食の買い物を済ませた母親、飲み会に繰り出す男性たち……そんな、なんでもない景色を眺めるのが、大好きだった。

『もっとボーダーが大きくなって、しっかりした組織になれば。悲しむ人はいなくなって、みんなが平和に暮らせる。そうしたら……』

未来を夢見て、沢山のことを語り合った日々が懐かしい。


ふと視線をあげれば、遠くには分厚い雲があった。
もしかしたら、雨が降るのかもしれない。
手をついていた窓ガラスに、親しい顔が映っていたから。
ゆっくりと振り返った。

「忍田さん」
「やはりここにいたな」

書類とタブレット端末を手にしていた彼が、やれやれと苦笑して小さくため息をつく。

「すみません、何かありましたか?」
「鬼怒田さんが探していたぞ。トリガーの調整が済んだと」
「約束の時間までまだあるはずですけど……」
「早く片付いたらしい」
「分かりました、行ってきます。開発室の方ですよね?」
「あぁ。…………
「…………はい?」
「そちらが済んだら、こっちの手伝いを頼む」
「……了解しました。本部長室でいいですよね?」
「あぁ」

窓ガラスに背を向けて、壁に囲まれた通路を進んでいく。

かつて学生服で彼と話していた私は、今はボーダーのエンブレムが付いた隊員服を着ている。
ロングコートを着ていた忍田さんは、幹部の人が来ているスーツ姿。

もう随分と見慣れた景色なのに――時折、変わったな、なんて思うのはどうしてだろう。
もしかしたら、変わったところを彼らに報告したいのかもしれない。
そうして、『信じられないでしょう?』と笑いあいたいのかもしれない。

砂糖なしの紅茶が飲めるようになって。
砂糖なしのコーヒーが飲めるようになって。
お酒が飲めるようになって。

でも、過去を振り返らなかった訳じゃなくて……。

階段を二つ下りて、開発室を目指す。

鬼怒田さんの用事が済んだら、忍田さんに、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを差し入れしよう。

いつもブラックしか飲まない人だけれど、今日は……甘いコーヒーに付き合ってもらおう。

きっと、あの人は「仕方ないな」と肩をすくめるけれど……笑ってくれるはずだ。
早くその顔が見たい。
「失礼します」と声をかけて、開発室の扉を開いた。