面影と遺灰

初めて彼と会った日を、昨日のことのように思い出すことがある。
まるで残った灰をすべて攫って行こうとしているかのように、風の強い日だった。


***


三門市。新たに警戒区域と定義された地域の中央に、ボーダーの本部基地が出来た。警戒区域。ネイバーの出現するゲートを誘導するための区域。
行政職員との話し合いの結果、警戒区域はネイバーが現れるゲートを誘導する関係ですべての住民の退避が決定され……。
今、サイレンの鳴りやんだばかりの街のあちこちで、引っ越しが盛んに行われている。
街を細かく区分けして、ボーダーの人間の付き添いの元、限られた短い時間で行われるそれは、引っ越しという言葉ではなく……避難や疎開の準備と呼ぶのが正しいような気がする。
散発的なネイバーの出現に対応するには……あまりにも人手が足りない。
組織を運営する人。ネイバーと戦う人。行政と話をする人。
そして……後進を育成する人。
一つだけに集中できている人なんていない。みんな何かしら複数の役割を果たしている。
食事と睡眠は決して疎かにできない、トリオンが憎らしく感じられるくらいだ。
……そのおかげで、戦えているのだけれど。それでも、守れなかったものは……あまりにも沢山あった。

少し遅めの昼食が済んだ、14時。
忍田さんに呼び出されて、木崎と小南、三人で本部基地のエントランスへと向かう。
「臨時休校になっていた学校が少しずつ授業を再開しているけれど、私たちはまだ当分欠席だろうね」とか、「いずれは公欠扱いになるらしい」とか、そんなことを話しながら階段を下りて、小南がドアを開いた。

「来たか」
私たちに気が付いた忍田さんが片手をあげて、声をかける。
小さな人だかり──十人くらいだろうか──の視線が、一斉に私たちに集まった。
初めて会う人たちだった。でも──一人だけ、知っている人がいて。
私はから目が離せなかった。

遺伝子とは、恐ろしいものだ。
だって、一目で誰の血縁者なのかがわかってしまう。

忍田さんが私たちの立ち位置を説明して、名前を名乗る。
そして十人の入隊希望者が、一人ずつ自己紹介を始める。

「……………………」


〝風間〟という呼び方は、ずっと、ずっと……進さんのことだった。
同盟国との戦いでも、今回の侵攻でも…………沢山の人が亡くなった。
…………進さんも。

「風間蒼也だ」
……彼は、驚くほどに進さんに似ている容姿で──驚くほどに、進さんと……。


『進さん弟がいるんだ。似てる?』
『………………』

……私たち、あなたのことを知っている。
ずっとあの人から話を聞いていたから。
まさか、こんな形で会うことになるとは思っていなかったけれど。

彼の顔を見て、進さんを思い描いてしまうことは……今目の前に立っている彼への冒涜だ。彼自身を見て、話をしなくてはいけない。
彼は、進さんではないのだから・・・・・・・・・・・

『ねぇ、ゆりさん。これなんて読むのかわかる?』
『平家物語ね。これは会者定離えしゃじょうりって読むの。……出会った人とは必ず離れる定め、という意味ね』

……この出会いも、いつか離れるためのものなのだろうか。

「……よろしく、風間」
無理やり上げた口角は、果たして、きちんと笑みの形を描けただろうか。

それが、風間蒼也との出会いだった。

Title :