でもきっとハッピーエンドのネタバレを含みます。
未読の方は先にそちらをお読みください。
となりあわせの星と月
それは、夕ご飯の片づけをしているときのこと。
「そうだ。、インタビューの依頼来たよ」
「へぇ、どこの?」
メディアのインタビューは日常茶飯事だから、わざわざ私に報告してくるなんて珍しいな、なんて思っていたのに。
「△△△△」
「女性誌? 珍しいね」
基本的にスポーツ誌や新聞、週刊誌なんかが多い。鳴が告げた女性誌の名前は有名なやつで、私もたまに買っているものだった。
まさかあの、最近芸能人に多い『愛とSEX』みたいな特集だったりしないよね……。いや球団がOKしないか。頭に過ぎったもやもやを振り払うように、手元のお皿の泡を流す。何かを綺麗にすることは気持ちがいいし、思考もクリアになる気がする。
「なんか勘違いしてない? への依頼だよ」
「……え? 私……? なんで?」
珍しいと思っていたら、対象が違った。私?
「プロ野球選手の妻が幼馴染なんて漫画みたい、とか言ってたかな」
「えええ……どうしよう……」
「マネージャーは断っても全然問題ないって」
なるべく表には出たくない。一般人でいたいけれど。でも、鳴がプロ野球選手になるって時、結婚するときにいずれこういうことがあるということは覚悟していたのだ。それに自分自身、ネットの記事を探して読んだりしていた。他の人がどうしているのか気になった時、先人の言葉はとてもありがたいのだ。
「うーん……」
片付けを終えてお風呂に入る。湯船の中でも私は唸っていた。
「……私、インタビュー受ける」
「分かった、明日伝えとくね。あぁ、事前に打合せしたいって言ってたよ」
「……わかった」
私としては一大決心をしたのに、鳴は随分とあっさりしている。少ない言葉のあと直ぐに視線をテレビに移した。もうちょっと、何かこう……あってもよくない? でもこういうところが鳴なんだよな……。
その3日後、球団のスタッフさんとの打ち合わせ。
「顔出しNGということ以外に、何か希望はありますか?」
「その……何分初めてのことなので、どうしたらいいのか分からなくて………」
「記事に書かれたくないこと、聞かれたくないことがあれば事前に指定できますよ。今回は、奥様の簡単な経歴や成宮選手との今までのこととかがメインだと聞いています。球団のスタッフも同行して、球団としてNGのものはストップかけますので」
なんてありがたい。後光が差して見える。スタッフさんとはこんなに頼りになるものなのか。
「分かりました……。よろしくお願いいたします……!」
深く深くお辞儀をして感謝した。
なるべく事前に準備や心構えをしておきたくて、ネットで調べてみてもインタビューする側の心得みたいなのしか出てこない。私が知りたいのはそっちじゃないのに……。
「コツとかない?」
「何の?」
「インタビューの」
結局、一番身近な人に聞いてみた。鳴は中学の時からインタビューを受けているし経験豊富だ。けれど。
「コツなんかないよ」
何にも参考にならない! いや、予想は出来ていた。きっといつもそんなに考えてないんだろうなぁと思っていたのだ。だけど……だけど! 緊張している奥さんに気の利いた一言くらい欲しい、と思う私は我儘なんだろうか……。
緊張して睡眠もそこそこの中、遂に訪れてしまったインタビューの日。綺麗目の服を着て球団のオフィスへと向かった。……知っている場所でよかった。
***
インタビューと言っても記者会見のようなものではなくて、普通の雑談のようだった。デスクを挟んでコーヒーを飲みながら今までのことや今の生活について聞かれたことを話す。時間が経つにつれてどんどん緊張がほぐれていき、私は無事にインタビューを終えた。
「では、記事が出来たら一度お送りさせていただきますので」
「はい、こちらから奥様にお送りします」
「わかりました」
記者の方と直接やり取りをするのかと思ったが、間に球団が入ってくれるのか。いや、鳴もそうだから当たり前なのかな。でも私は選手じゃないし。でも変なこと言ったら球団にも影響しちゃうもんね。冷静に考えればすぐわかるのに、相当緊張していた自分に苦笑いしながらその日は解散となった。
***
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。失礼します」
「…………」
「…………」
「何というか、ほんわかした人だったな」
「ちょっと意外でしたよね。成宮の性格を思うと」
「いや、同じような性格だったらあんまり長く続かないと思うぞ」
「まぁそうでしょうねぇ」
「ああいう幼馴染とずっと付き合ってたんだなぁ」
「成宮、ファンサービスはいいしアナウンサー達への態度もいいけど、浮いた話無かったですもんねぇ。あっても週刊誌のやらせでしたし」
***
──界隈では有名ですが、お隣のお家で幼なじみ。
そうですね。成宮の家にはお姉さんが二人居て、うちの母が色々相談したりしてたみたいです。そこから親同士が親しくなって。公園デビューの日も一緒だったらしいです。
──漫画みたいですね。
よく言われます。笑。でも私としては気がついたら、という感じでした。
──野球の練習なんかもずっと一緒だった?
そうですね、球出ししたり、撮影したり。チームの練習は特に。幼いときは見ていないと不機嫌になったので、宥めるために側にいた形ですね。そして今でも王様のままです。笑。
──試合も観戦されてた?
それはもう、もちろん。遠征したのは甲子園だけですが、行けるところはなるべく行きました。お小遣いとお年玉のやりくりが大変で。でもやっぱり試合は見ていて楽しいですね。球場で知り合いの方も出来て、混雑する試合の時にやりとりしたりしました。
──御幸選手とも小さい時からのお知り合いだと聞きました。
はい、何度も対戦すると相手チームのことも覚えますから。
──ファンの方からすると羨ましいですね
今思い返すと贅沢ですよね。当時はプロ野球選手! なんてよく言ってましたけど、まさか本当になるとは。本人に疑ってたのか怒られそうですけど。
オールスターで御幸選手とバッテリーを組んだ時は見ていてとても楽しかったです。
──マネージャーなどにはならなかった
チームのマネージャーとしてはとても務まらなかったと思います。昔から、良くも悪くも〝専属〟でしたね。
──高校は別々の場所に進学された
実家から通うには稲実は遠かったですね。練習試合を見に何度かお邪魔させていただいたのですが、やはり毎日通うには厳しい距離でした。進学先については、稲実に行かないと決めた時点で真っ先に話しました。
──ご両親よりも先に?
はい。反射的でしたが、両親よりも説得……というか、納得する結論を出すのに時間がかかるから、と後から思いました。最初はなんて言われるかと身構えてましたが、思ったよりもあっさりと進学先が決まりました。
──高校生の時は決まって会えたのはお正月のみ
そうですね。こちらからの連絡は一週間に一、二度。試合の日程、
プリントの写真だけ来るんですよ。せめて文字を打って欲しかった。笑。試合の時はタイミングが合えば少し話せますが、それも1分あるかないか。今までのそばにいた度合いを思うと、ギャップが凄かったですね。
付き合ってるとイベントが色々あるじゃないですか。そういうのは全部お正月に先にやっておくんです。誕生日プレゼントの交換とバレンタインとホワイトデー。
──それは。笑
バレンタインのチョコが譲れなかったみたいです。笑。毎年、お節作りの後にチョコを作ってました。高校から結婚するまでですね。
後は少なめのものですけれど、千羽鶴も毎年渡していました。50羽の小さいものですけど、部屋に掛けたり、試合の時は鞄につけてたりしてくれてましたね。
秋くらいからコツコツ作って、初詣の時に去年の分をお焚き上げしていただいてました。
──甲子園では鳴ちゃんフィーバーもありましたね
あれはびっくりしました。ニュースで見たことはありましたけど、まさか自分の目の前で起こるとは思わなくて。でも母に「これからも付き合っていくなら、あなたもキチンと考えないといけない」と言われて。もしかしたらそこで初めて漠然と将来のことを思ったのかもしれないですね。
──失礼ですが、離れるという選択肢は浮かばなかったのでしょうか
なかったですね。進学や就職といった事情があって、物理的な距離があったとしても、別れるという選択肢はなかったです。向こうも考えたことはなかったと思います。上手く言えないのですが、今までずっと一緒だった、これからもずっと一緒、と普通に思ってました。特に伝えあったりしたことはないですが……。違ったらどうしよう。笑。
──成宮選手もご結婚の時インタビューで、「(結婚)するのはずっと前から決まってた。いつするかだけ相談した」とおっしゃってました
私たちにはそれが当たり前の認識だったんですよね。無事にここまでこれて、ありがたいことです。
──ではプロポーズはどういう風に?
これ言っていいのかな……。一番最初はドラフト会議の直後です。電話でした。
──それは凄い
本人の中にはなんとなく人生設計が出来ているんですよね。プロ入りが決まったのと同時に、もう結婚も決まったみたいで。でもこちらはそんなこと知らないので、びっくりしました。この時点では正式なものというよりも、精神的なもので、予約というか。今後の自分の将来を考える時に、『結婚』を踏まえていて欲しい、ということでした。不確定ではなくて、もう確実に将来結婚するから、と。あとは、入籍する前の正式なものですね。こちらは色々と記事になった通りです。
──お二人は喧嘩しなさそうですね
そうだったら素敵ですが、喧嘩はします。でも想像していたよりずっと少ないですね。初めて二人で生活する時は流石に不安だったんですが、元々お互いの生活をほとんど把握していたので、どちらも受け入れられたという。笑。後は寮生活のお陰だと思います。掃除、洗濯、身の回りのことはほとんど大丈夫だったので、稲実、プロの寮生活を指導してくださった方たちにとても感謝しました。なので、喧嘩の原因は大体が食事のことです。
──具体的にはどんな?
お味噌汁の具とか、カレーのお肉とか……。ヘルシーかな、とチキンカレーにしたらポークだろうと言われました。あとは豚汁のお芋ですね。一度サツマイモを入れたら里芋じゃないと嫌だと言われました。なんかこう話すと子どもっぽいですね。
──大リーグへの挑戦はいかがでしたか
いよいよ来たか、と。昔から夢が大きいので、「将来アメリカに行くから英語ちゃんと勉強しといてね」とも言われていました。人に言っておきながら本人はあまり成績良くなかったのですが、野球のことに関しては不思議とコミュニケーション取れてるんですよね。悔しかったです。「なんで?」って凄い思いました。私も英語はあまり得意ではなくて、ずっと成績もよくなかったんです。でもデービス選手の奥さまと知り合ってから、少しずつ力がつきました。読み書きはまだ不安がありますが、インターネットの翻訳や辞書にとてもお世話になっています。でもやっぱり、初めて日本を出たので、緊張したし大変でしたね。慣れるまで凄く時間がかかりましたし、もっと事前に準備しておくべきだったな、と思いました。
高校生の時の日米交流試合で対戦した方と再会できたり、思い出深いですね。
──オリンピックやWBCなど、世界大会での活躍も
侍ジャパンの威力は凄かったですね。初めてグッズで保存用と使う用という形の購入をしました。アイドルのコンサートみたいな団扇も初めて手にしました。マグカップとスマートフォンカバーを愛用しています。グッズ以外の話もしないといけないですね。
──ぜひお願いします
***
──最後に、成宮選手にメッセージをお願いします
球団マスコットにはもっともっと優しくしてください。あとは、怪我に気をつけてくれれば、それで。
──ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
Title : サンタナインの街角で