大きな手

3月の終わりに桜が咲いて、入学式の時にはもう葉桜だった。教室で対面した同級生は男子が二人だけ。女の子がいなくて残念だ。3人だけの1年生の教室は机が三つ並んだだけで、見た目はすごく……寂しかった。真ん中の机に座る人は短い上着を着ていて(漫画以外で初めて見た)一瞬不良なのかと思ったが、私が見ている限りずーっと笑顔だった。

「灰原雄! よろしく!」
です、よろしく」
「……七海建人です」

もう一人の男子は小さな声で名前だけを呟き、灰原(呼び捨てでいいと言われた)とはまるで正反対のように見えた。
色素の薄い金色の髪は、彼に外国の血が流れていることを示しているようだが──『そういうことは聞かないで欲しい』と表情、態度で示されていて私には聞く勇気はなかった。
綺麗な外見だから、そういうことに触れられることが多かったのだろう。
そう、彼はそこらへんの女の人よりも綺麗だ。白皙の美人だと思ったことは口には出さなかった。でも。

「七海はハーフとかなの?」
「………」

灰原は地雷に踏み込むタイプか。いや彼には地雷は見えていないのかも。

「……母方の祖父がデンマーク人です」

デンマークって、北欧の国だったよな。高専に入ることが早々に決まったので受験勉強をサボったツケがここで効いてくるとは。

「じゃあクォーターなんだね!」

七海くんの微妙な気分の変化に気づいているのかいないのか。灰原は笑顔で純粋に感心している。

「これから4年間、よろしく!」

笑顔で手を差し出す灰原に応えようとして手を伸ばしたけれど、彼の手を掴む前にピタリと止めてしまった。
私が彼と握手をしたら、七海くんがあぶれてしまったようではないか。

三人とは難しい人数なのだ。だって、割り切れない。

?」
「あ、ごめん。三人だと握手出来ないなって思って」
「あぁ、そうだね」
「……お二人でどうぞ」
言外に握手はしないと言われているのに灰原は気にせず七海くんの右手と私の左手を取ってそのまま握り込んだ。

「改めて、よろしく!」
「………うん、よろしく」
「……よろしくお願いします」

灰原の勢いに負けた七海くんが小さなため息をつく。なんとなく、この瞬間に私たちの関係性が決まったなと思った。

ぎゅっと握られた灰原の手はポカポカと暖かくて大きくて、七海の手は少しひんやりとしているけれど同じように大きくて──

普通の高校生よりも絶対に密度の濃い、4年間の高専生活が始まった。