初任務
高専にも寮生活にも慣れてきた四月の終わり。初めての任務が割り振られて、補助監督さんの運転する車に乗って都心部──新宿のゲーセンへと向かう。
「電車じゃなくて車で行くのとか、なんか贅沢だよね」
「基本的に近郊への移動は車みたいですね」
「遠くなると新幹線とかにもなりますけどね」
「じゃあ経費で新幹線とか飛行機とか乗るんですか?」
「遠方にはそうなりますね」
車の後部座席に三人並んで座りながら(真ん中は灰原だ)、資料として渡されたプリントを見つつ補助監督さんから色んなことを教えてもらう。
……こういう文字が多いのはなるべく車に乗る前に貰いたい。
「文字読んだら酔いそう……」
「じゃあ僕が音読しようか!」
「灰原って車酔いとかしないタイプ?」
「乗り物には強いよ!」
「あまり大きくない声でお願いします」
「了解!」
灰原が読み上げてくれるからか、七海もプリントを灰原に預けて外の景色に視線を移したようだ。灰原が目撃情報や現場の情報をはきはきと読み上げるのを聞きながら、質問する箇所がないか頭の中で確認する。一年生に最初に割り当てられる任務だからか、そんなに難しくもなさそうだし、複雑でもなさそうだ。
「夕方にゲーセンに現れる呪霊かぁ」
「付近の建物なんかも人払いされてるんですよね?」
「はい。けれど繁華街で店舗などが多く、全部のテナントから了承を取るのに時間がかかったようで。なるべく今日一回で終わらせたい任務です」
「ちょっと緊張するね」
胸に手を当てながら灰原が言う。
「灰原は今まで呪霊と戦ったこと無い?」
「一回だけ。は?」
「私は……十回くらいかなぁ。通ってた学校で何回かあるよ。……七海は?」
「…………私も十回くらいです」
それ以上の詳しい情報は教えてもらえないようだ。七海みたいなタイプの人間とは今まで親しくしたことは無かったけれど……三人だけの同級生という特殊な環境で、お互いに命を預けて戦う可能性があるという以上、私も灰原のように遠慮なく絡みに行くことにしたのだ。灰原が七海と仲良く話しているのを何回か見たからでもある。……男同士だから、とかいう理由だったらどうしよう。今のところ大きな成果はあがっていないが、かといってこれと言ったマイナスポイントも無いように思えるので、しばらくはこの作戦を継続する予定だ。
高速道路を降りて、歩行者の多い通りをゆっくりと車で進んでいく。コインパーキングに車を停めて、現場のゲーセンの前に到着。補助監督さんが帳を降ろして──付近一帯は黒い幕に覆われた。
「これが帳……」
「凄いね、あっという間に夜になった」
「ちょっと、中に入りますよ」
「では、お気をつけて……!」
補助監督さんに見送られて無人のゲーセンに入る。それぞれのゲームの音が鳴り響いて、人の話し声が無くてもちっとも静かじゃない。
「……人がいないとちょっと怖いね……」
人気がないというだけでこれほど不気味に感じるとは思わなかった。腕時計の時間は十四時半。夕方という時間にはまだ早い。中々に広いゲーセンのどの場所に霊が現れるのかを話し合う。
「ナンパに失敗した恨みとか」
「じゃあプリクラの辺りかな?」
「………………」
「対戦ゲームで負けた恨みかも」
「じゃあ対戦ゲームの辺りだね」
「………………はぁ」
七海にわかりやすいため息をつかれてしまった。
「七海も案出して」
「の式神に見回りさせるのはどうですか?」
「でも、見つけた時に私が気付けるのかが分からない」
「じゃ僕たちが直接見つけないとダメか」
「……分担するのが現実的じゃないですか」
「でもお互い見失わない?」
「見通し悪いしね」
ところ狭しとゲーム機が設置されていて、死角となる場所が多い。
「道路みたいに鏡が設置されてればなぁ」
「そもそも呪霊って鏡に映るのかな」
「確かに……」
「そういう話は後でしましょう。分担しないなら三人で固まって動くしかありません」
「じゃあ巡回する?」
「そうだね、僕が前に立つよ」
「補助します。は後ろに」
「了解。後ろは私とクロが見るね」
前衛を男子二人に任せて、一歩後ろに下がり、虎を呼び出す。後衛だからって安心することは出来ない。後ろから襲われることがないようにしなければ。
ルートを決めて見逃すことの無いようにフロアの中を歩き回る。何周どころかなん十周としたところで、ようやく呪霊が現れた。
***
七海が手足を切断して、灰原が殴った後に、クロの鏡で呪力を吸い出せば、あっという間に呪霊は消えてしまった。
「結局競馬ゲームか……」
「まぁ、怨念が溜まってそうな場所ではあるね」
「、呪霊の呪力は吸い取れたんですか?」
「うん、なんか……自分のとは違うのは分かる。凄い、気持ち悪い感触がする」
「凄いね!」
「いよいよ呪力切れの心配がなくなりますね」
「とりあえず、報告に行こうか」
一年生の初任務ということで酷く心配してくれていた補助監督さんのところに戻れば、余程心配をしていたのか少し涙ぐまれてしまった。
簡単に口頭で報告して、帳があがる。再び昼の空の下に立ててよかった。
「思ったよりも簡単に出来てよかったね」
「せっかくだし、プリクラ撮っていく?」
「なんでそうなるんですか、嫌ですよ」
「えー」
結局、ごねたけれどプリクラは撮れなかった。
七海は写真が嫌なのか、プリクラが嫌なのか。
今まで特に意識していなかったけれど、私は三人での写真が欲しくなってしまって──
「お給料が出たからデジカメの一番いいやつ買ってきた。これで七海を激写する」
──七海が諦めるまで、デジカメで追いかけまわしたのだった。