星よりも遠く 1

追記文を協調

潜水母艦が海上に浮上し、太陽の光を浴びている。
外の空気に触れるのは随分と久しぶりに感じられて、は浮かれながらニコルの手を引いてデッキを目指した。
母艦に寄り添うように補給艦が並び、二つの船を何本ものパイプが繋いでいた。
普段目にしない光景をは不思議そうに眺めていた。
地球に来てからは目にするもの全てが新しい。
「久しぶりの外ですね」
ニコルが大きく深呼吸をしながら言う。も大きく息を吸って、太陽の光を浴びながら少し体をほぐすように動かした。
「補給ってどれくらいの時間がかかるのかな」
「どうなんでしょう……。エネルギーや水、物資なんかも色々ありますからね……」
「あ! 今魚が跳ねた!」
「え?」
ニコルの後ろの海で魚が跳ね……小さな水飛沫が起こる。
は柵から身を乗り出して海面を覗き込む。ニコルはの肩を後ろに引き寄せながら、同じように海面を覗き込んだ。
……けれど、魚が再び跳ねることはなかった。
「…………」
は小さくため息を吐いて、小さな声を意識して話す。
「………本当に足つきはオーブにいるのかなぁ」
「…………」
どうやらニコルも同じことを考えていたようで、二人は顔を合わせて思案する。

先日オーブに潜入した際には、足つきや地球軍に関わる情報は何も得られなかった。
それなのに、情報を整理するために集まったミーティングで、アスランは驚愕の一言を告げたのだ。

「足つきはオーブに居る。間違いない。出てくれば北上するはずだ。ここで網を張る」
「あ? おいちょっと待てよ! 何を根拠に言ってる話だそりゃ」
「一度カーペンタリアに戻って、情報を洗い直した方がいいのではありませんか? 確証が、ないのでしたら」
「いや、居るんだ」

その後、誰が何を言ってもアスランは「足つきはオーブに居る」と言い切り、頑として譲らなかった。
もニコルも、繰り返し何度もアスランに声をかけ、話し合おうとした。
「足つきに関する情報を見つけたのか」、「オーブに居ると確証している理由を教えて欲しい」と。
一対一ならば何か変わるかもしれないと、とニコルは交代してイザークとディアッカを足止めし、アスランとの対話を試みた。
「……あなたが足つきはオーブに居ると確信しているのはわかったけれど……。理由も説明されずに強引に進めようとされると……こちらもどうしたらいいのか、混乱してしまうわ。アスランを疑っているわけじゃないのよ。ただ、今のままだと……もしも足つきがオーブに居なかった場合、大きな禍根が残るわ。イザークとディアッカは元々反発的だし、今後のために、しこりを残すようなことは避けたいの。私たちは同期とはいえ、今はあなたの部下であって……あなたには、隊長としての役目を果たして欲しい」
は出来うる限りの言葉を尽くしたけれど……アスランが口を開くことは決してなく……。
彼はただ、「すまない。けれど足つきは間違いなくオーブにいる」と繰り返すだけだった。

イザークとディアッカの反発は凄まじいものだった。音を立てることを制限されている潜水艦でなければ、止める間もなく殴り合いになっていただろう。
……けれど、今回ばかりは…………無理もないとも思ってしまうのだ。

アスランは「必要ない」と言っていたけれど、とニコルは二人で──たまにイザークとディアッカの二人も巻き込んで──何度も情報を洗いなおした。
オーブ近海での戦闘。
オーブ軍による戦闘への介入。
オーブの港でロストした足つきのシグナル。
潜入した際のオーブ、モルゲンレーテの様子。
カーペンタリアから得た情報。
長期間オーブに潜入している工作員からの報告。

何度確認しても、足つきの行方は判然としない。
たちが導き出せる結論は、〝足つきはオーブにいるかもしれないし、既にオーブを後にしているかもしれない〟という曖昧で……結論のない推察だ。
網を張っている間にカーペンタリアから新しい情報が入りはしないかと望みを繋ごうとしたが……。
定期報告の定型文がモニターに映るだけだ。

ブリッジのクルーに声をかけられるほど、艦内の雰囲気はよくない。
クルーゼ隊長や……ラスティが居たら。もう少し、何かが変わっていただろう。
がそう思ったことは、誰にも──もちろんニコルにも──話すことはなく。

オーブ近海、少し北上したポイントで網を張ることになり……現在、補給を受けている。

足つきの居場所がはっきりしないことにはどうにもならない。
オーブに滞在しているなら……出てきた際に押さえることが出来るだろう。
けれど、既にオーブを出発していて、無事にアラスカに入られたりしたら…………。

とニコルはずっと頭を悩ませていた。


***


パイロットに与えられた、潜水艦の中では広い部屋──ヴェサリウスやガモフよりはずっと狭い──には、重苦しい空気が流れていた。
潜水艦という船の特性上、空気は淀みやすい。
けれど、イザークが文句を言いたいのはそのことではない。
確かに宇宙とは違い、太陽や海など、環境が大きな影響力を持っていて、それに左右されることが多いが、それはそういうものなのだと割り切ってしまえばいいだけの話だ。
思うように身体を動かせないのは小さなストレスだが……クルーにトレーニング方法を聞いてからは、問題なく鍛錬を行えている。
様々なことに制約があるのも、仕方がない。
──足つきとストライクを撃つためだ。あいつらさえ落としてしまえば、すぐにクルーゼ隊長の指揮下に戻れるだろう。そうすればザラ隊なんてすぐに解散だ──。脳裏を過った〝ザラ隊〟という言葉。イザークは自分の思考に腹を立てた。苛立ちが募る。怒りの火はここ数日、ずっと己の中に燻っている。
不愉快な感情を持て余して、寝転んで天井を睨みながら舌打ちを鳴らすと、雑誌を読んでいたディアッカがイザークに視線を寄越した。

「ったく、どういうつもりなんだか」
「マジだよねぇ。ほんとに補給まで受けちゃってさぁ」

先の潜入作戦の後、アスランは理由や根拠を何も話さず、「足つきはオーブに居る」の一点張りだった。
イザークとディアッカはもちろん、やニコルまで戸惑っていた。
とニコルは何度もアスランに声をかけ、そう決断するに至ったのか説明を求めていたが……アスランは口を開くことも己の考えを曲げることもせず、己の意思を貫き……こちらに押し付けた。
結局、オーブ北部の海で網を張ることになってしまったのだ。

「……これでもうここに二日だ! 違ってたら足つきはもう遥か彼方だぞ!」

こんな風に大きな声で怒鳴ったのも久しぶりだ。
イザークは勢いよくベッドから身を起こし、ディアッカの顔を見れば──奴の口元は嘲笑うように歪んでいた。

「ノシちゃう気なら手貸すよ?」
「っ!?」
「どうする? クーデターやる?」

クーデターなんて大それたことを口にしているのに、ディアッカの声音は驚くほどに軽い。
イザークはおちょくられているのだと思った。

『……傷跡を残すくらいにストライクを撃ちたいと思っているのよね。その気持ちよりも、アスランへの嫌悪感の方か大きいの?』

先日に言われた言葉がイザークの頭に甦る。
気に食わない同期と、癪に障る存在。
どちらの方が不愉快かなど、比較して考えたことなどなかった。

思考を巡らせる必要などない。
ミゲルを殺され、四機でかかっても仕留め損ね、挙句には傷をもらい──あいつを好意的に思う理由が微塵も存在しない。
アスランは……限りなく気に食わないが、同じ陣営に所属している……同僚であり……認めたくはないが、優秀な人間であることは間違いない。

総じて……ストライクの方が憎らしい存在だ。…………敵なのだから当たり前なのだが。

そう結論を出したイザークは、イザークなりにアスランへの態度を見直そうと思っていた。
もちろん……ストライクと足つきを撃つまでの限定のつもりで。

なのに、今回の一件である。

今では、譲歩しようという気持ちは跡形もなく消え去っている。

「フン! 残念ながら、それほど単純な頭でもないんでね」

再びベッドに倒れこんだイザークはディアッカに背を向け、顔をしかめる。
アスランがいくら気に食わないといえど、ディアッカの軽口に乗るほどではない。
現在はアスランが〝隊長〟で、指揮官なのだ。結局のところ、従わないわけにはいかないのだ。
足つきがオーブにいなかったら……アスランを隊長に据える理由もなくなる。
引き摺り下ろすことも可能かと思ったところで、クルーゼの笑みが過ぎる。
寛大なクルーゼならば、アスランを解任することはないだろう。
どちらにしても、独断で物事を進める人間について行く人間など限られている。
ザラ隊か崩壊する前に、常に次の手を考えなくてはいけない。
足つきが、オーブにいなければ……。


***


補給の様子を眺めながら──とはいっても二つ並んでいる艦を眺めているだけだが──ニコルと二人で海の風に当たる。
打ち寄せる波──水面はずっと眺めていても飽きたりしないから不思議だ。
補給の間は、戦いのことや足つきの行方のことは忘れようというニコルの進言に、は素早く賛同した。
こんな風に時間を過ごすのは、少し前の休暇以来だろうか。
休暇明け早々に地球に降下して、足つきを追いかけて各地を転々としている。
こんなにゆっくりとしていると──ニコルのピアノが聞きたくなってしまう。
「新しい曲はどう?」
ニコルはいつも手荷物に楽譜を入れている。
地球へ来ても例外はない。
先日のコンサートを終えてから、ニコルは新しい曲作りに取り組んでいた。

「方向性は決まったんですが、少し中盤のメロディに悩んでいて」
「どんな曲? テンポは?」
「アンダンテかモデラートになる予定です。主旋律はシンプルなので、でも弾けると思いますよ」
「エキスパートの言う『簡単だから』は大体が嘘だからなぁ」
「僕はのピアノの水準は把握していますから」
「でも、何年も前のことじゃない」
がこっそりピアノに触ったりしていない限り、正確なはずです」
「なら、信頼出来る情報だね」
「今度弾いてみますか?」
「私は自分で演奏するよりも……ニコルが弾いているのを見る方が好きだからなぁ」

一瞬、強い風が吹き──もニコルも言葉を噤み、乱れた髪の毛を手櫛で整えた。

「私のためだけに弾いてくれるのを聞くの、贅沢でしょう?」
「今の曲が出来上がって、その次に作る曲はの名前を入れましょうか?」
「〝エリーゼのために〟みたいな?」
「〝我が幼馴染 に捧ぐ〟とかどうですか」
「面白いしどんな曲が出来上がるのか気になるけど、絶対にやめてね」
零れた笑い声が、空に吸い込まれていくような青天だった。
いつか太陽の光の下で、ニコルにピアノを弾いてもらおう。
青い空に一つも雲が浮かんでいない日がいい。
そんな日が、早く迎えられるといい。

「あ、!」
ニコルの弾んだ声と、右方向を示す指先が、空想に耽っていたの思考を引き戻す。
ニコルの指先を辿れば、そこでは魚の群れが海面を跳ねていた。

「わぁ、凄い! なんの魚かな」
「さっきのやつでしょうか」
「少し違う気がするなぁ」

水族館のような人の手で整えられたものではなく、自然のままの光景。
もっと近くで眺めてみたいけれど、人が近づくと警戒して移動してしまうかもしれない。
そう話して、二人は魚が跳ねる様子を遠目に眺めた。
通りがかった海の生き物に詳しいクルーがたちに魚の名前を教えてくれた。
「トビウオかぁ」
「確かに、跳ねるというよりも飛んでいますね」

どうやら結構な数が群れをなしているようで、何匹もの魚が海上に姿を現してはまた潜り、また現れては潜り、と繰り返している。
噴水や滝を眺めていられるように、二人は飽きることなく、ずっと海を眺めていた。

「あ、アスラン」
ふと視線をずらしたニコルが、艦上に腰かけているアスランを見つけた。
ニコルはに「アスランも誘ってきますね」と声をかけて走っていった。
アスランはトビウオを見て、どんな感想を抱くだろうか。


***


補給が終わる前に外の空気を吸いに行こう。
そう考えてデッキにやってきたイザークは、重い扉──宇宙だったら人感センサーで自動で開くのに──を開けてから先客が居たことに気が付き、少し驚いた。
と視線がぶつかり……彼女も少し驚いた表情をしていた。
海中に潜っている潜水艦の生活だと、外の空気に触れる機会は数えられるほどに少ない。
酸素の補給ではなく、水や食料などの大掛かりな補給は、それなりに時間がかかる。
ということは……それなりにまとまった時間、海上に停泊するということで。
せっかくだから外の空気を吸っておこうと考えるのは、イザークに限らないということだ。

先客──とは、彼女が地球に来てからどこか気まずいというか……居心地が悪いというか……身の置き場が難しい心地になるのだ。
……イザークが一方的にそう感じているだけかもしれないが。
端的にいえば、彼女から発せられたアスランに突っかかるなという忠言がきっかけである。
オーブへ潜入するまでは特に問題はなかった。
イザークもディアッカも、足つきとストライクを撃ちたいという気持ちも目的も同じだからだ。
それが、潜入を終えてからのアスランの独断専行。
……考えると今でも瞬時に怒りが湧くので、イザークは無理やり思考を止めた。

「向こうに」
「は?」
が前方の右手を指さした。

「トビウオっていう魚の群れなんですって。さっきからずっと跳ねているの」
久しぶりに外に出られたからか、それとも魚の群れが見られたからか。
は随分と上機嫌だった。
まるで戦前──研究会やパーティで会ったころを思わせる様子だな、とイザークはどこか懐かしく思った。
今のように……穏やかで柔らかく笑っているのが、彼女の本質なのだろう。
「フーン?」
の指さす方を見てみれば、小さな魚が海面を跳ねるように動いている。
中々飛距離が長い。どうやって飛んでいるんだ、そもそも何故跳ねるんだ?
魚は水の中でしか生活できないのではないのか。いくつかの疑問がイザークの頭に浮かぶ。
趣味としている民俗学とは異なる分野だが、地球の光景は面白い。カラカラに干からびた砂漠と、海では正反対と言えるほどに環境が違う。

「そういえば、イザークとディアッカは砂漠にも滞在したことがあるのよね」
「……あぁ」

確かに砂漠に居たことはあるが、嫌な記憶ばかりなのであまり思い出したいものではない。

「どんな所だったの?」

イザークの気持ちを何も知らないが、まるで追い打ちをかけるかのように言葉を続けた。
「…………あまり良いところではない。風が吹くたびに小さな砂の粒が舞って、まとわりついてザラザラする。日差しを遮るものがないから暑いのに、夜は驚くくらいに寒い」
「そうなのね……」

は興味深そうにイザークの話を聞いていた。

「……でも、一度は行ってみたいわ」

は笑っていた。
彼女がのどかに笑っているところを見るのは、随分と久しぶりだ。
こんな風に会話が出来ることを、どこか嬉しく思っている自分がいることにイザークは驚く。
それを決して態度にも表情にも出さず。言葉少なく……二人は会話を続けた。

太陽の光に揺れる水面。波の音。遠くに座っているアスランとニコル。補給作業を行うクルー。

平穏に会話を楽しめる時間など滅多にない。
だから……この時間は、希少で貴重なもの。

この先に待っているのは──戦いなのだから。


***


オーブから艦隊が出発するのを補足したのは、補給を受けてから二日後のことだった。
ブリッジに確認に向かったアスランが戻り、第一戦闘配備を発令する。
たちはパイロットスーツに着替え、モビルスーツのコックピットに乗り込む。皆が黙り込んでいた。
……まだ艦の特定が済んでいない。
艦隊の中に足つきはいるだろうか?
…………アスランが『オーブにいる』と繰り返し語った。だから──はそれを信じるだけだ。

『敵艦隊より、離脱艦あり。艦特定、足つきです!』
オペレーターの言葉に、はびくりと肩を揺らした。通信の向こうから息を飲む音が聞こえる。皆同じ気持ちなのだろう。アスランの言った通り、足つきはオーブに居たのだ。小さな口笛が耳に入る──ディアッカだ。
『当たりましたね、アスラン』
『出撃する! 今日こそ足つきを落とすぞ!』

『ハッチ開放! 進路クリア。射出始め!』
イージスやブリッツが射出されるのを見送り、もゲイツをポイントへと進める。潜水母艦からの出撃は、宇宙での出撃には存在しない重さがある。
『進路クリア。ゲイツ射出開始!』
重力に逆らい上昇するにも、空中戦を行うにも、大量のエネルギーが必要だ。
ゲイツのエネルギー容量はブリッツたちと比べるとずっと少ない。
無駄な動きをしないよう、は気を引き締めた。

続いて射出されたグゥルに着地して、先を進んでいるイージス達を追いかける。

敵がこちらの射程圏内に入る、というところで足つきは煙幕を放出し始めた。
たちと足つきとでは、勝利条件が異なる。
足つきの目的地はアラスカだ。けれど……地球軍の勢力圏に入りさえすればこちらの負けだ。その前に墜とさなくてはならない。

「煙幕!?」
「チッ! 姑息な真似を! ……二機?」

前の戦いでは一機だった支援機が二機になっている。
ストライクを数の力で押し切りたいところなのに、割く戦力が増えるのは厄介だ。
このタイミングで追加投入されるパイロット──恐らく技量も相当なものだろう。油断してはならない。

と、煙幕の中から砲撃が放たれる。直撃することはなかったが、煙が充満している割には正確すぎる攻撃だ。支援機からこちら側の座標をもらったのだろう。
『散開!』
アスランの声を聞いてブリッツやイージスと距離をとる。ストライクはデュエルとバスターの方に向かった。

「くっ! ストライクっ!」
「こっから先へは行かせねぇよ!」

煙幕の中にいくつか射撃をしてみたが、手ごたえはなかった。
迂闊に煙の中に飛び込むわけにもいかない。
二機の支援機はどのように動くのか。
のゲイツではストライクのフェイズシフト装甲に攻撃が通らない。
足つきと支援機を相手にするべきだ。
…………支援機やモビルスーツが居ようと、ここで母艦を墜とせば戦いは終わる。は足つきに狙いを定めた。

そうしている間に、バスターとデュエルのグゥルが破壊され、二機が海に落ちていく。
……ストライクのパイロットの腕が上がっている。
こんなにも呆気ないものなのか、イザークとディアッカの二人が?
機体に性能の差がある訳ではない。これが実力? ……そんなはずはない。オーブ軍の介入がなければ、あの時足つきを墜とせていなのに。
は歯を食いしばった。
「こいつ!」
イージスとブリッツがストライクとの戦闘に突入する。
こちらの駒は減った。
支援機を墜とすよりも──一つでも多く、ストライクへと攻撃しなければ。
はブリッツの背後に回る。しかし、ストライクは三機の攻撃をあっさりと躱した。

その時、煙幕の影から足つきが姿を現し、ストライクは高度を下げる。
足つきの艦砲射撃が来る。こちらも迎撃すると、殆どの弾は落ちたのか、辺り一面が爆発の炎で埋め尽くされた。
畳みかけるように支援機がの視界に入る。
「あいつ、空中で換装を!?」
綿密な作戦と息の合った連携。
それは……たちが築けなかったものだ。
まるで『お前たちとは違うのだ』と言われているようだ。

射撃の成果もなく、ストライクは空中で装備の換装を行うという離れ業をやってのけた。
換装を変えたストライクが、勢いそのままにイージスとブリッツ、そしてのゲイツへと迫る。
最初にストライクの標的になったのはゲイツだった。射撃を繰り返してもストライクには当たらない。こちらのグゥルのように狙うべき弱点も存在しない。銃を、剣を、考えうる限りの攻撃を仕掛けるが──ストライクには通用しない。
結局、もグゥルを破壊されて海へと落下した。飛行能力が心許ないモビルスーツは、どうしてもグゥルに頼らざるを得ない。そのグゥルが破壊されると空中戦は行えなくなり、離脱するしかなくなるのだ。頭では理解していても、情けない気持ちになるのを止めることは出来なかった。
海に叩きつけられた衝撃で、深く深く落ちていく。
機体の破損もないうちに母艦に帰るわけにはいかない。まだ戦いは続いているのだ。
ゲイツのペダルを深く踏み込み海上へ出る。
……空にブリッツの姿はなかった。恐らく、たちと同じようにグゥルを墜とされたのだろう。

イージスとストライクの座標は少し移動し、戦いの舞台は小さな島に変わっていた。
空中戦ではないのなら、まだ出来ることがある。はストライクのいる島へと移動を始めた。

が島に到着したときには、ストライクの装備が更に変更されていた。アスランでもストライクとの一騎打ちでは分が悪いだろう。
はストライクの背後に周りライフルを放つ。当然のようにストライクには躱されてしまったが、アスランが攻撃の糸口をつかめればそれでいい。移動して再び射撃を行おうと、レバーを左に動かした瞬間。
目の前に飛び込むようにストライクが現れた。
「っ!?」
一瞬の間にここまで間合いを詰められるのか。やはりストライクのパイロットの腕は尋常ではない。ナチュラルにこのような動きが可能なのか?

シートに背中を打ち付けて、一瞬呼吸が止まったような感覚がした。
レバーから利き手が外れ、制御することも出来ずそのまま壁にぶつかる。

──何が起こったのか。

冷静さを失う訳にはいかない。
はカメラの映像を振り返る。

メインカメラにストライクの肩が一瞬映り、そして遠ざかっていった。
飛んできたスピードをそのままに体当たりされたのだろう。
ゲイツは砂浜を削りながら後退してそのまま倒れこむ。
腕が熱い。手が痺れて上手く力が伝わらない。
これでは……狙った場所に撃つことが出来ない。
とにかくまずは移動し、別の手段を考えよう。
ストライクは既にゲイツの射程圏外へと移動していた。

視界の端に映ったイージスが鮮やかな赤から灰色へと変わっていく。
エネルギーが切れたのだ。
ストライクが剣を振りかぶる。
──アスランが殺されてしまう!
は無我夢中でゲイツを操作し、ストライクへと駆け寄る。ストライクを止める方法なんて思いつかないけれど、このまま攻撃をさせる訳にはいかない。

「アスラン下がって!」
ニコルの声だ。イージスの奥から、右腕のないブリッツがミラージュコロイドを解除して走り寄っている。
「はああああぁ!!」
ストライクはブリッツの槍を躱して、剣を──ブリッツの腹部──パイロットのいるコックピット部分へと食い込ませた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!」
聞いたことの無いニコルの悲鳴がゲイツの中に響き渡る。は剣が刺さったまま火花を発しているブリッツを遠目に見つめていた。
「……アスラン……逃げ……」
ニコルのか細い声が聞こえた直後に、ブリッツは爆発して四散した。